『展覧会 3.0 テレイグジスタンスと窓の外』
後期授業が対面形式で再開し、ようやく本来の日常を取り戻した。 新型コロナウイルスの脅威も落ち着きを見せ、未曾有のパンデミックは 過去のものとなりつつある。 『展覧会 3.0』後半会期は、活気を取り戻した学内を舞台に、質量を持った作品たちが一堂に会する 展覧会である。 仮想空間内で行われた前半会期は、ある意味展覧会の理想形ともいえる。 作品のサイズや配置を自在に変えられるのみならず、重力の支配から解放することをも可能にし、 直接会場に足を運ばなくても、いつでも、どこからでも展覧会にアクセスすることができた。 コストや効率の観点にのみ着目すれば、現実で展覧会を行う必要性は皆無と言っても過言ではない。 それでもなお、わたしたちは実空間で展示ができることを心から待ち望む。 仮想空間に作品を配置することは、すなわちそれらをデジタルデータという 1 つのフォーマットに押し込めることに他ならない。 貼り付けられたテクスチャは、突き詰めるとピクセルやポリゴンに過ぎず、 それぞれのマテリアルが持つ意味合いは画一化される。 そのため、本展覧会では素材そのものがコンセプトに強く影響するものに焦点を当てる。 塑像においての、粘土原型から石膏・FRP といった素材の変遷、 見慣れた日用品の集積、仮想空間から実空間への移行による劣化。 表現形態が十人十色であるほど、作品と鑑賞者との共振にも多様性が生まれる。 生々しく残る手痕を際立たせ、作家が積み重ねてきたプロセスを可視化することで、 アーティストたちが、この危機的状況をいかにして超克したかを提示する。 今後、インフォメーションや記録に留まらない展覧会ウェブページの在り方が 求められるだろうし、その反動で実在としての展覧会の需要はますます高まっていくだろう。 『展覧会 3.0』は、ヴァーチャルとリアル、デジタルとアナログといった 相反する 2 つのフォーマットを行き来することで、これら互いの得意不得意を補完し合い、 時代に流動性に素早く応答する展覧会を目指す。
戸田樹|Toda Itsuki